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デザインとコスチューム

原田長きにわたるバンピレラの歴史で、書き手(描き手)も変われば設定もどんどん変わっていくんですけども、何よりこの服装、見た目っていうのがあると思うんですよね。

朝比奈シンプルで特徴的で、とても強いデザインですよね。黒髪に白い襟に真紅のコスチューム、ヴァンピレラのマークが股のところに黄色とかゴールドでついていて、黒いブーツ。そんなにデザイン的には複雑じゃない、シンプルながら、誰かが真似すると一発でバレちゃうっていう、これ以上特徴的にはなかなか出来ないかなみたいなところがあるんですよ。

原田そう。色のバランスが素晴らしいですよね。

朝比奈50年近く経つにもかかわらず古さがない。いまのアメリカのコミコンとかでも、必ずこの格好をするコスプレイヤーがいるんだけども。

朝比奈色んなアレンジを加えてここに辿り着いたとかじゃなくて、最初に誕生した時点で既に完成されているというところ。中々やろうとして出来ることではないなと思います。

原田アメコミは日本よりも歴史の長いキャラクターが多いじゃないですか。キャラクターが漫画家じゃなくて出版社に帰属するからなわけですが、やはりデザインのアレンジやアップデートというのは時代が変わるにつれ行われていくんですよね。でも、バンピレラに関しては一発目のデザインが最も優れているから……。

朝比奈そうですね、漫画の内容によっては鎧っぽいものがあったりとか、違うデザインのものを一時期身に付けたりもするんだけど―

朝比奈必ず最初の姿に戻ってくるというのが凄い。各部のバランスもほぼ変わりませんね。

原田このコスチュームに関しては、本当に凄いのを最初に作ったなあってところはありますよね。ホラー系の女性キャラクターっていうのは色々いると思うんですよ、例えばドーンとかレディ・デスとか。良いキャラクターは色々あるんですが、それでもそのシンプルさと先駆者という意味合いでは、やっぱりヴァンピレラは格が違うのではないかと。

▲左:ドーン 右:レディ・デス。

朝比奈レディ・デスなんて神秘的で謎めいた雰囲気はあるんだけども、バンピレラの場合シンプルなのにあらゆる要素……セクシーさとか強さとか、神秘性とか、ホラー・フィメールに必要な要素が全て満たされているというところかなあ。装飾品のあるなしとか、腕輪の形がちょっと違うとかあるんだけども、基本的なコスチュームデザインの完成度がめちゃくちゃ高いんですよね。

原田そうですね。

朝比奈今だと割とこれに近いような下着とか水着とかあるんだけど、60年代後半のアメリカの水着とかの写真を見ると、ビキニはまあ普通にあるにしても、こういうのは見当たらない。当時のデザイン的にはかなり斬新なものとして描かれたんじゃないかなっていうふうに思うんですよね。

原田朝比奈さんは昔これを初めて見た時にどう感じました?ファーストコンタクトということなんですが。

朝比奈ファーストコンタクトは……月刊で日本版スターログっていう雑誌が昔出ていて。アメリカの最新の映画とかコミックとかを色々紹介する雑誌なんですが、模型やガレージキットも載っていたんです。個人的には立体物がとにかく好きなので毎号楽しみに読んでたんだけど、その中でバンピレラが紹介されていたんです。まずそれでこんなキャラクターがいるんだというのを知りました。

原田なるほど。

▲こちらはオーロラ製プラモデル。

朝比奈それからそのスターログの別冊みたいな形で2冊、日本語版のバンピレラのコミックが出たんです。それには一話目が収録されてたんですけども、読んでみたらこのように露出高めのコスチューム着た主人公なのに、決してポルノの話とかエロティックな話ではなくて、あくまでSF&ホラーというところに収めていて。そこからはみ出していないというのが意外だったし、とてもいいと思ったんですよね。

原田外見は過激だし、まあエピソードによってバンピレラ以外の人の裸はちょいちょい出てくるんですけど(笑)。ポルノ方面には行きませんね。

朝比奈そのギリギリのところでちゃんと留めているってところが、当時としてはすごく珍しいものとして目を引きました。もちろんこのコスチュームには「何だこれは」というのはあったんだけども(笑)。当時日本の恐怖コミックというと、楳図かずおさんみたいな「恐怖を描くための恐怖コミック」があったけれども、これはそこらへんともちょっと違うぞと。これは日本に該当するコミックはないなあと当時思いましたね。

原田内容に関しても、斬新なものとして映ったということですね。

朝比奈あと何と言ってもこの絵柄ですよね。

原田絵が抜群にいいですよね。カバーだけでなく、中身の絵も本当に素晴らしいものが多いです。

朝比奈デッサン力に裏打ちされたってところもあるんだけど、一コマ一コマが本当に映画のスクリーンになっているような、細かな書き込みとか写実的なところで上手く描いてるなあという感動。あとはいかにもアメリカの女優さんみたいな顔ってところで、日本とは違う魅力がありました。

原田露出度の高い衣装ですけど、基本的には非常に上品なんですよね。

朝比奈そう、品があるんです。

原田バンピレラをデザインしたのは、トリーナ・ロビンスという女性なんだそうです。フェミニズムの活動をしていた方で、コミックにおける女性の描かれ方の改善や、女性のコミック作家の促進にとても力を入れていたとありますね。この方の存在が重要な要素であるのは間違いないと思います。

朝比奈そこに鍵があるのかもしれないですね、当時そういったキャラクター像を作ったのは偉大なことだなあとあらためて思います。誕生して50年近く経ちつつもこの古びなさということで、100年続くんじゃないかって感じはあるんだけど(笑)。