6.

像(ZOW)を眺めて

—スタチューをご覧になっての感想はいかがですか?

朝比奈いやあ……言葉がないというくらいに非の打ち所がないというか、ちょっと震えてしまうくらい素晴らしいですね。原型はタナベシンさんですね。

原田そうです。タナベさんのバンピレラが見たくてオファーしました。

朝比奈もちろんタナベさんのこれまでの作品を見ると、技術力の高さというのは誰もが認めるところだと思いますが。写真で見せてもらったときも凄いなと思いましたけど、現物はさらにという感じですね。なかなか言葉にするのが難しいのですが、なんというか、バンピレラの魅力というか個性が全部きちんとありますよね。

原田そこは本当に話し合いました。バンピレラというキャラクターの根底にあるものを形にしたいということで、バンピレラがバンピレラたる要素は何なんだろうねというのは、最初のほうでけっこうやりました。

朝比奈その成果は出てると思います。妖艶さもヒーロー感もあって。妖しさが感じられるとともに、パワーだったり強さだったりというのも表現されています。顔がいいですねえ。冷たい美しさを備えつつ、どこかオリエンタルな顔立ちにも見えるところが面白いですね。ただ美人というだけでなくて、ホラー的な雰囲気がありますもんね。

原田タナベさんの力量が半端でないんですね、理解できてもなかなか形にできるものではないと思うのですが、バンピレラの本質は何なんだろうと見極めたうえで、こうして形にしてもらえて。

朝比奈ただ造形力があるというだけだと、単なる露出度の高いお姉さんになってしまいますもんね。これは見事にバンピレラ。もう、恐れ入りましたという感じ。こういう肌の露出が多いキャラクターの場合、特にデッサン力が求められるというのはあるんですけどね、そういったハードルは軽々と越えて……。

原田好きな方にそう言って頂けると嬉しいですね!でも、はい。本当にそうです。ただ精密に、緻密にリアルに作ればそれでOKだというのではなくて、そもそも今回のシリーズのコンセプトというか、ミッションとして与えられたのは「キャラクターの本質を形にすべし」というのがあったので、それを感じてもらえているというのは本当に嬉しいです。

朝比奈版元の……アメリカの、ダイナマイトコミックスの反応というのはどうだったんですか?

原田ええと、最初にまずタナベさんにイラストを描いてもらったんです。いろいろ案があったんですけど、ガーゴイルを踏んづけてるのがいいじゃないのと。タナベさんはめちゃくちゃ絵も上手いので、そこでこのイラストをダイナマイトに送ったら、「素晴らしい、OKです」って。

朝比奈特にここを直しなさいみたいなのはなくて?

原田そこから今に至るまで、ダメ出しは数えるほどしか無かったです。

朝比奈それは凄いですね!

原田けっこう身構えていたんですが(笑)。自分的にはカリスマ性の高い造形……と言って伝わるかわからないのですが(笑)、見た時に何かこう、ハハア〜(手を上に挙げておじぎをする)みたいな、なんか崇めたくなっちゃうみたいなものになったらいいなと漠然と思ってまして。バンピレラってカリスマ性が何かあるじゃないですか。

朝比奈ありますね、はい。

原田社内でもそんな話をしてて、「それって仏像だよね」とか言われてああそうかって。で……これは完全にあとづけなんですが、「あれっ、なんだかスタイルが仏像っぽい」(笑)。ガーゴイルを踏んづけているという一点のみなんですが。

朝比奈ああ、餓鬼を踏んづけてる像みたいな!

原田そうそうそう。それ、「フィギュア王」の編集さんに指摘されたんですよ。それで「無意識のうちに仏像を作っていた!」(笑)

朝比奈(笑)。

原田ということに、あとからしました(笑)。それは冗談にしても、カリスマ性のあるものになったなあというのは確かなところで。タナベさんにも、バンピレラ度100%でありつつ、なにか日本人が作ったイメージは出したいという話はしてたんです。なにか侘び寂びのようなものが漂わないかなと。タナベさんは「うんうん、わかりました」って言うんですけど。あの……僕は自分で言っといて、それが具体的にどうしてほしいのかわかってるわけではないんですよ(笑)。でもタナベさんはわかっていて、こうして形にできるからこの人すごいなあって……。

朝比奈そのへんはきちんと伝わりますね。空気感がすごくあるし、上品だなあ。バンピレラというキャラクターは上品だって話をしていましたが、これは今までの立体物のなかでも群を抜いて品があるかもしれないですね。そこに侘び寂びという言葉があると、なにかなるほどなって思わされる。
露出度の高いコスチュームを着ておきながら、性的な下品さを感じさせるようなことが無いという。それなのになんだこのクオリティの高さは! というところはありますね。

原田そこは本当に良い感じになって、ポーズも指一本動かせないような絶妙な角度で。柔らかいのに、どこも動かしたくない。

朝比奈確かに! これはいじれないですね。完璧だなと。とにかく人体の骨格がしっかりと感じられるし。

原田骨格ということで言うと、お気に入りのポイントがありまして、このお尻のラインです。横に張り出した部分の位置が低めで、きちんと外国人の線になってるって思いませんか?

朝比奈とてもわかりますよ。西洋人、アジア人の女性の、ヒップのラインとかの違いは結局突き詰めていくと骨盤というか、脊髄から始まった骨格の違いなんですよね。造形としてその違いを作り分けられる技術を持った方というのはそうはいないと思います。本当にポーズがいい。この蛇ですら動かせないくらいに決まってますもんね。これ、蛇の造形はデジタルですか?

原田いえ、アナログ造形です。デジタルは使ってないですね。ちょっと素材は細かくは忘れましたが。すごいディテールですよね。

朝比奈これはどうやったんだろう……(笑)。ドクロの造形もすごいなあ。ドクロと蛇の質感の違いもリアルで、これは彩色のクオリティの高さにもよるものですが。これは彩色はどなたが?

原田彩色は矢竹剛教さん(ACCEL)です。矢竹さんは一回、商業作品から引退するって仰ってたんですけど、やっぱりどうしても矢竹さんにお願いしたかったので、駄目もとで。ものすご〜く深刻な感じで、「実は……」みたいな感じで電話して(笑)。

朝比奈無事OKをいただけたと(笑)。いや、さすが矢竹さんですね。コスチュームは単に赤い色が塗られてるわけでなくて、キワの部分が濃くて中心部分が明るくて、立体感がすごい。この胸とか腰の部分、光が反射してるのかと思ったら塗装でおもいきり明るくしてるんですね。

原田写真でなかなか伝わらないポイントですが。最初の段階で、コントラストを思い切りやってほしいというのをお願いしたんです。矢竹さんの諧調の幅の広さというのがとても好きで、このバンピレラはそのアプローチが絶対合うと思ったんですね。なので「基本的には浅い色で、部分的に濃い色で締めてください」と。要は「いつも通りやってください」なんですけど、ことさらに強調して。

朝比奈髪の毛なんて見ると、けっこう黒くないですよね。

原田よくぞ言ってくれました、そうなんです。そこもポイントです。あんまり僕が言うもんだから、矢竹さんは「白髪になりますよ」って言うんですけど、「矢竹さんならいい塩梅に落としこんでくれるでしょ」って言って。だからそこは一発でやってくれましたね。さすがだなあと思いました。

朝比奈すごいですね。ブーツもそうですね、エナメルの黒いブーツなんだけど、黒じゃないですね。

原田この塗りはなかなかできないと思います。だから僕、今回造形に関しても彩色に関しても、こうしてほしいって言ったらそれで終わりで、何もしてないんです。できる人に頼んだ、終わり、という……(笑)。でも最初矢竹さんに「カリスマ性のある色に」とか言ったら「はあ?」って言われましたけど(笑)。「なに?叶姉妹?」みたいな。「ラメラメにしろってこと?」って(笑)。でも最初の打ち合わせが済んだら、そうそうこれですと。

朝比奈最初に言ったら、あとはお任せで。

原田お任せで。ドクロは茶色でカサカサで、蛇は金蛇なんですっていう話をしていたんですけど、矢竹さんが金の蛇って黄色の蛇ですよねって言うので、じゃあそれでやってくださいって言ったら見事な……。普通は、凹凸の凹モールドのところって暗い色を入れていくと思うんですけど、これは白が入ってるんですよ。本当にさすがで。

朝比奈なるほど!逆にね。普通だと濃いめの茶色とかを流すところを、白を入れて鱗を再現しているってことですね。でも実際いるなこんな蛇って感じですね。あ、ドクロの歯が光ってますね!

原田そう、ここ金色なんですね。これは僕、言ってないです(笑)。でもばっちりですよね。

朝比奈いや〜、これは本当にいい。欲しいです。

原田そう言っていただけて嬉しいです。僕も欲しいです(笑)。

朝比奈あの……根本的なことなのですが。

原田はい。

朝比奈今回なぜ、この「像(ZOW)」シリーズの第一弾にバンピレラを選んだのですか?

原田ええっ。確かに根本的ですね。どうしてだろう? いや、これはもう、好きだからとしか……(笑)。僕だけがというんじゃなくて、豆魚雷の全員が、豆魚雷そのものがバンピレラを愛してるんですね。だってものすごく豆魚雷とバンピレラって違和感ないというか、組み合わせとして気持ちいいと思うんですけど、どうでしょう。

朝比奈確かにものすごくマッチしている感はあります。豆魚雷さんというキャラクターとバンピレラはね。

原田なのでどうしてかと聞かれると、それは必然というか……。いや、豆魚雷というキャラクターは何なんだって言葉で説明するのは非常に難しいんですけど、そこはもう我々を知っている方なら「ご存知のように」って言う他ない(笑)。今回僕は商品そのもののディレクションをしましたが、正直に言うと僕自身は企画の最初の段階を知らないんです。どこからか自然発生したかのような……。まったくおかしな話ですが。

朝比奈そんなことってあるんですか(笑)。

原田ないと思いますけど(笑)、でも面白い言い方をすると、豆魚雷がバンピレラを愛するあまりに導かれてしまった企画ということにしたいですね。導きですよ。

朝比奈面白いですね、見えざる手が働いた企画(笑)。でも、それもこの仕上がりを見ると納得させられるものがあります。……それともうひとつ、今回の豆魚雷さんから発売されるこのスタチュー。正式の版権許諾を得た「バンピレラのオフィシャルな商品」としては「日本のメーカーとしては初となるもの」ではないかと思うのですが。

原田ハッ! あっ、そうかも! そうですね!

朝比奈気付いてませんでしたか。

原田言われてみればそうです。そうかあ、そうですね。売りにしよう(笑)。

朝比奈日本から出た初めてのスタチューがこれっていうのは、世界に誇れるのではないかと。今日はバンピレラの話がたくさんできて良かったです(笑)。ありがとうございました。

原田こちらこそ! 好きな方に見ていただけて良かったです。ありがとうございました。