5.

アーティストたちと、一度きりの映像化

—様々な方がバンピレラを描いているわけですが、お気に入りのアーティストというと誰になりますか?

朝比奈僕はやっぱり、今日持って来たこのコミックの表紙を描いているボブ・ラーキンさん。これはもう、当時発見した瞬間に買わざるを得なかったという感じで、魅力があるなあと感動しました。

原田蝙蝠からバンピレラに変身しているところですかね、ミステリアスだし、色づかいもいいですね。

朝比奈この巻は、中のコミックの絵もいいんです。

原田アメコミでありがちなのが、表紙に惹かれて買って、中身を見たらあれっ?ということですね。バンピレラの、ことウォーレン時代のものに関しては中身のコミックもものすごいクオリティです。失望がない(笑)。

朝比奈これは、Gonzalo Mayoという人によるものですね。調べるとペルー出身の方のようです。デッサン力もあるし、線も魅力的ですね。なにより一コマ一コマが映画のワンカットみたいなんですね。

原田眺めてるだけでいいですよね。僕はやはり、ホセ(ペペ)・ゴンザレスです。この人が一番好き。1ページがアートです。額に入れて飾りたいくらいですね、ものすごい描線で。

朝比奈バンピレラと言われると、ホセ・ゴンザレスの絵を思い浮かべる方が多いかもしれないですよね。初期のメインアーティストで、とにかくめちゃくちゃ上手いです。前に彼が絵を描く様子がYouTubeにあったので見たんだけど、ザザザーッで描いていくんですよ。ザザザザザっと。もう、ものすごいんです。

原田うわ、これはすごいですね。ペンの動きが本当にザザザザザッと。殴り書きみたいだけど最後はこの絵になるのか!

朝比奈なんだかボールペンみたいなので描いてるようにも見えるんだけど。この人は天才ですよね。いかにもアメリカの映画の女優さんのような顔つきがいいんだよな。雰囲気含めて、ホラー系のところに上手く収まるという意味で外せない人だなって思いますね。

原田バンピレラ以外では何を描いてるのかな?「おしゃれ(秘)探偵(The Avengers)」のコミカライズをやったりしてるみたいですが、あまり目立った作品が見当たりません。

朝比奈そうですね、もっと活躍していいと思うのですが。スペイン出身で、2009年にお亡くなりになったとあります。

原田エンリケ・トーレス(エンリク)、この方もたくさんカバーを描いてますね。巨匠です。こちらもスペイン出身だそうなので、バンピレラってラテンな感じなのかも。

朝比奈ひたすら上手いです。デッサン力がものすごいですよね。

原田当時の実力派が集結していたような感がありますね。

朝比奈実力派というとなんといっても、第一号の表紙を描いたのがフランク・フラゼッタで、超大御所ということで。この一巻の表紙はかなり吸血鬼っぽさが全面に出た感じで、ホラー度が濃厚ですよね。目なんか人間の目じゃないですし。どの絵を見ても、画力がある人を起用してたんだなあというのが感じられますよね。

原田絵の良さというのがキャラクターの強化に役立ってますね。

朝比奈デジタルがない時代の中で、絵画として本当にクオリティが高くて。背景とか絡ませる他のモンスターとか含めて、本当にビジュアルとして非常に濃度の濃い絵が多いなと思いますね。

朝比奈こういう大きな蜘蛛に怯えたりとか、強いキャラのはずなんだけど何か弱さも感じさせるという凄く不思議な感じもあるんですよね。色んな能力も持っている、強い、っていうだけじゃなくて昔のホラー映画とかで女優さんが必ず叫び声をあげて、ていうところが。

原田スクリーム・クイーンですね。だからこの人一人が、ホラー・フィメールとしての役割を全部担っているという。

朝比奈そうですね、襲う側と襲われる側、ホラーという枠組みにはまっていればどちらの象徴にもなりうるという。普通強いキャラだったらこういう絵とかはなかなか出しづらいんだけど、別に違和感を感じない。そこが凄いところです。当時としては唯一無二というか、相当新鮮なキャラクターだったんじゃないかなあ。

原田確かにそうかもしれない。セクシーでホラーで、懐が広い(笑)。ロボと絡んでるカバーがありますけど、全然違和感がないですもんね。

朝比奈いいよねえ、この絵(笑)。

原田最近のアーティストだとどのあたりがお気に入りですか?

朝比奈この人も大御所ですけど、アダム・ヒューズさんがやっぱりいいなと。今はこの頃とはまた作風が変わってるんだけど、この絵は凄くいいなあと思いますね。

朝比奈なので僕としては、上手い方がたくさん手掛けている中で強いて好きなアーティストを挙げろと言われたら、ボブ・ラーキンさんとフランク・フラゼッタさん、アダム・ヒューズさんになるのかな。

原田僕はやっぱりホセ・ゴンザレスがだんとつでいいですね。あとブルース・ティムのバンピレラも可愛いんですよね。お気に入りです。

—映像化もされたということで、DVDをお持ちくださったんですね。

朝比奈映画化されたのは唯一これだけで。

原田意外なことに、一度きりなんですね。

朝比奈タリサ・ソトさんという方が主演で。この人は他にも何本か映画に出ているみたいなんですけども。調べてみると劇場公開はされていなくて。

原田ビデオスルーなんですね。

朝比奈そうなんです、これがそのDVDで。リージョンが違うので普通には観れないんですけどまあなんとか見てみたら……B級低予算映画というまではいかないんだけども、まあこんな感じなのかなっていうような出来で……。

原田いや、僕も観たんですが、これははっきりとひどいですよ!言ったら悪いですけど。お話としては、ドラキュロン星でバンピレラの父親が殺されて……。

朝比奈で、その仇を打ちに地球に来るという話ですね。敵の大ボスがザ・フーのロジャー・ダルトリーでね。

朝比奈バンピレラのコスチュームがちょっと酷かったですよね、これは。

原田ジャケットのデザインだと、布の面積が思ったよりあるけど、まあわかる。問題は本編です。これは果たしてバンピレラなのか。

朝比奈これはちょっとねえ。

原田ちょっとどころじゃないですよ。多分ね、あんまり動くとポロリしちゃうからこれになったんじゃないかと思うんですけど(笑)。どうしてこんな…しかもおへそまで隠れちゃって、ブルマみたいになってますよ。

朝比奈まあ、なんとなくバンピレラかなぁくらいな感じで。自主制作映画よりもちょっとダメかもみたいなね。

原田原作への尊重は感じられません。だからこれを見て「バンピレラってこんななんだ」と思われたら、それは違うと言いたい!

朝比奈シンプルに85分に収める為に復讐劇にしようってところはしょうがないにしてもね、どうせならもう少しちゃんとしようよってところはありますね。でもまあ、今のところ唯一の映像化作品ですよね。