原田それではここから、Skypeでペイントを担当した矢竹剛教さんを呼びます。SUPER MIXTURE MODELの第一弾と二弾、インビジブルウーマンとミスティークでは原型を担当していただきました。
(Skypeで矢竹さんを呼び出す)
原田あのー矢竹さん、ありがとうございました。塗っていただいて。
矢竹いえいえ、あの、っていうか塗らせていただきありがとうございました。
一同(笑)
原田今回塗ってみていかがでした?
矢竹塗装はいつもの作業っちゃあいつもの作業なんですけど、やっぱり言うても自分はジェリーさんの大ファンですし、それを再現した藤本くんの立体物がめちゃめちゃよかったんで。それを塗らせてもらうっていうのはある意味光栄でしたよ。
RJBいやいやいや、そんなもう。
矢竹いや、もうホンマにお二方ともグッジョブで。
藤本ありがとうございます!
原田では矢竹さんにも、今回難しかったところと楽しかったところを伺いたいんですが。
矢竹大変だったのはやっぱ肌ですかねえ。リカバーしないといけなくなっちゃったって話覚えてますかね?
原田アクシデントがあったんでしたっけ?
矢竹最初はサフレスで塗装しようとしてたんだけど、肌の部分にマスクゾル(※)の色が移りこんで取れなくなっちゃって、それを隠蔽するために厚塗りをしないといけなくなっちゃって。でも結果的にジェリーさんのイラストの再現と考えたら、サフレスより隠蔽したやつのほうが合ってて功を奏した、災い転じて福となったみたいな。
※マスクゾル……マスキング用の液剤。
原田彩色サンプルを作るときに使うレジンの、もともとの透明感を活かして仕上げるというのがサフレス塗装ですね。
矢竹そうです、フィギュアとしてかわいらしい雰囲気を出そうと思ったら透明感があるほうがいいので、美少女系であるとかそういうフィギュアのペインターの方達は多分サフレス塗装を好んですると思うんですけど。
原田今回はアクシデントがあって隠そうとしたら、結果いい感じになったという。
藤本ほわぁーとした肌になってますよねぇ。見れば見るほど肌色のパワーがすごいですよ。
RJBね、肌色ね。たしかにね。ま今回ほとんど肌の部分だもんね。難しかっただろうなぁそれは。
矢竹あ、肌色、気に入っていただけました?
藤本いえいえもうすごい! 僕としては、どうやって塗ってるのかわからないってレベルなんですよ。
矢竹そういうふうに言ってもらえるなら良かったです。あの、ひとつぶっちゃけると、ミスの上で成り立ってる色なんで自分でもどうやって塗ったのか……(笑)
一同(笑)
RJBそれ製品化可能なわけ?(笑)
原田それ矢竹さんがわかんなかったら、工場の人わかんないじゃないですか。困るなあ!
RJB誰もわからないよ!(笑)
矢竹だからそこの手元にあるやつを一旦返却してもらって、自分でもう1回解析しないといけない……(笑)。
RJBじゃ、この肌の塗装ってのはわりとチャレンジだったんですかね?
矢竹そうですねえ。あの、やっぱりお姉ちゃん系のフィギュアってやっぱ肌の色ってすごい重要で。
RJBそうだね、一番大切だねえ。
矢竹なので、そこを外してしまうと、もう他をいくらがんばったところで……みたいな。
RJB確かにね。
矢竹だからやっぱ、そこが一番気を使うところですよね。多分ね、塗装やり始めた最初の頃の人らが一番最初に悩むところって、やっぱ肌の色だと思いますよ。自分も一番相談受けるのはそこなんで。別になんか初心者やからとか長いことやってるからとか関係なく、いつまでやってても悩みの種ですよね。
RJBタケさんが作ってる、自分のオリジナルフィギュアとかあるじゃない、ああいったのとはまた違うのかな?
矢竹あ、違います違います。
RJB違うのか!
矢竹アイテムによって適した肌のテクスチャーとか色とかってあると思うんで毎回変えますし、特に自分のやつはとにかく実験台なんで。
RJBへぇー!なるほどねえ……。
矢竹自分が作ってるキットの肌塗装は。依頼を受けたやつってあんまり実験とか出来ない。まあ、やっちゃうんですけど……。
一同(笑)
矢竹やっちゃうんだけど、そんな無茶苦茶な実験って出来ないんだけど、自分のキットやったらね、なんとでも出来る。いろんなこと試してしまうんですけど。ただ今回は、今まで培った技術を応用してバンピレラを塗るつもりだったのが、結局失敗をすることによってそうはいかなくなってしまったんです。あの、実験台になってしまって申し訳ございません……。
一同(笑)
RJBでも結果良かったからね!
矢竹そうですね、最終的にまあジェリーさんの肌の色やったらこんな感じでいいんじゃないかな? ってところまで、なんとか行けたかなっていう気はしますけどね。
RJBそれはやっぱ矢竹君も藤本君も、Rockin'Jelly Beanのイラストだったらこうなんじゃないかというのをすごく考えてくれたおかげで、すごく自分が思ってる感じになって、だからこそこれだけの作品になったんだなって思います。
藤本いやほんとね、この肌のパワーは再現してほしいなぁ……。
RJBね。このメイクの感じとかね。
矢竹あ、結構地味に難しいのが、アイシャドウですよ。
RJBアイシャドウね! そうだね。ちっちゃいしね。
矢竹ちっちゃいし、それが外側にいくにしたがってボカさないといけないじゃないですか。
RJBそうそうそう。
原田ジェリービーンからエッジをボカしてねっていうリクエストがありましたね。
矢竹これがね結構、今思い返しても……。
RJBじゃあそこのグラデーションはやっぱ難しい?
矢竹難しいですね。
原田過去作全部、アイシャドウが入ってるんですよね。
RJB今原田くんがちょうど前のインビジブルウーマンとミスティークとふたつ見てるんだけど、どっちもグラデーションでアイシャドウが入ってますね。
矢竹あー、そうですね。多分俺、そこ毎回悩んで電話してますよね。
RJB(笑)
矢竹やり方として毎回違ってるんじゃないかなあ。
原田うん、そう思いますね。生産のほうも、インビジブルウーマンとミスティークではやり方が違うんですよ。
RJB今回の製品化もね、がんばってもらいたいとこだけども。
原田頑張ります……!
矢竹あと、藤本くんの造形ありきですよね。めちゃくちゃいいです!
藤本いやいやいや! 矢竹さんに見られるのもホント怖かったですし。
RJBいろんなプレッシャーがあったんだね(笑)。
藤本あった……!(笑)
藤本ベースはわりと色数を抑えてる印象があるんですけど。
矢竹例えば棺の部分とかに木目つけちゃったりとか、色んなテクスチャーを散りばめることも出来るんだけど、あまりそこを目立たせちゃうと問題あるのであっさり目で。そもそものベースの造形が良かった、密度もあるし。別に何もしなくても存在感があったんで、ちょっと色を添えるだけでいい感じになるんじゃないかなと。ただ、グラデーションは結構ついてると思いますよ。
RJB面ごとについてるよね。
矢竹それはよくミリタリー系の模型とかで見る、面ごとに明暗をつけていくカラーモジュレーションていう方法なんですけど。戦車のパネルごとに明暗をつけていく方法というのがあって、それを応用してるわけですね。
原田なるほど。
矢竹ただ、棺はカラーモジュレーションなんだけど、そこからニョキニョキ生えてる手とかはリアル系塗装。バランスが取れてるかどうかは結構調整するのが難しいですけどね、違和感ないようにしないといけないんで。
原田いかがですか?
RJBいやー、バランスいいと思います!
原田いいですよね。
藤本矢竹さんの作品見るたびにいつも「美味しそう」っていう感覚があるんですよ。
矢竹ハッハッハ。
藤本それはなんかあの、もちろん食べ物としての美味しさとかそういうのじゃなくて……。
矢竹それは、“エロい”ってことですか?
藤本いや、そういうわけでもないんですよね。
矢竹でも、美味しそうって思ってもらえるのってすごい嬉しいですよ。
藤本僕の中でこの最上級の感覚なんですよ、この美味しそうっていうのが。造形物でもそうですし。
矢竹自分が特に意識してるのって、もちろん明暗だったりとかするんですけど、もうひとつ意識してるのが彩度の意識なんですよ。食べ物が美味しそうに見えるのって彩度があるから。例えばリンゴの写真を撮って、彩度が高かったら美味しそうに見えるけど、くすんでたらこのリンゴ食って大丈夫か?みたいな感じになるじゃないですか。
藤本そうですね。
矢竹なので彩度を意識するんですが、それだけで構成するとパンチが薄くなるので彩度を際立たせるために濁った色をうまく入れたりします。ある程度人の目に留まりやすいように意識はしてますね。
RJBなるほどねー。
矢竹模型の展示会の会場とか、色んな作例が並んでるところに行くとよくわかるんです。その彩度が足りてなかったりとか陰影が足りてないやつって、結構みんなに素通りされちゃうんですよね。多分存在感が薄くなっちゃう。自分が塗ったやつを目立たせようと思ったら、そういうところを意識して塗らなければ埋没しちゃう。
RJB確かにそうだよね。
藤本いやー、勉強になる。
矢竹彩度を意識してるのが、藤本くんに言ってもらった「美味しそう」というのに繋がってるのかなと思ったりしますけども。